方南町ストーリー
八百市
あたたかな場所「八百市」
八百屋なのに!?
「お客さんのリクエストに、応えていたら、いつのまにか……」
あっけらかんと笑う劉(りゅう)いづみさんが指差した一画には、調味料や卵、野菜以外の様々な商品が並んでいる。
創業100年を越える老舗「八百市」――今は父、母、娘のいづみさんで営んでいる。
いづみさんが、初めて店に立ったのは、小学3年生――すでにベテランだ。
看板娘の劉(りゅう)いづみさん
「あの瓶もそうだよ」――指差した先には、“酢”の一升瓶が。
「うちはよく、酢の物を作るから、ほしいのよね」と、近所のおばあちゃんからのリクエストだ。
お店で取り扱っていない商品でも、お客さんからの要望があれば仕入れる。最近では、生わさび、むき銀杏、ハーブ等を仕入れた。
凝った料理を作りたい時には、いづみさんにコソッと言ってみるのがいいかもしれない。
ほかにも、「供え物」を用立ててほしいという注文も時折入るという。
商店街を抜けた先の釜寺を訪れる人は、八百市が御用達だ。
「故人の好物だったから、〇〇を入れてほしい」といった声にも、対応している。
出来合いのものでは、こうはいかない。
卸から、ラッピングまで、全てを手作業でやっているからこそできることだ。
大々的に、こういったことを打ち出しているわけではないが、細やかな対応が口コミで広がり、「八百市なら、やってくれるかも」とリピーターが増えている
リクエストの“酢”の一升瓶
ふっと肩の力を抜ける場所
店が開くのは、午前6時半。
「近所の、ボランティアのおじちゃんが開けてくれてる」と、いずみさん。
「ええっ!? いいんですか?」
「いいの、いいの!みんな、いい人だから」
――このおおらかさは、すごい。
数年前にお父さんが骨折したことが始まりだった。人手不足に困っていた時、助っ人として手伝ってくれて、それが今でも続いている。
――なんだか、いいなぁ。
古き良き、というか「人と人との繋がり」が感じられて、あたたかい。
そんな八百市には、買い物だけじゃないお客もやってくる。
「熱が出ちゃったんだけど、どこの病院がいいかな?」
「地震がきて、心細いからちょっといていい?」
ちょっとしたことだが、そんな時頼れる場所があるのは、なんと心強いことか。お客さんにとって、八百市は、「ふっと肩の力を抜ける場所」なのかもしれない。
「今」が「最高においしい」ものを
人との繋がりももちろんだが、なんといっても野菜・果物の鮮度・・・おいしさである。
スーパーで買ったもので、「さあ食べよう!」となった時、まだ熟していなかったという経験はないだろうか?
その点、八百市には「プロが選んだ“今”」が並んでいる。
代々、野菜と果物を見続けてきた「目利き」の目は本物だ。
「今」が「最高においしい」ものを仕入れる。
是非ともスーパーのものと、食べ比べてもらいたい。
内緒だが「スーパーより、おいしかった」とリピーターになってくれるのが、思わず、にんまりする瞬間だそうだ。
なんでも屋コーナー
「ゆず」がおススメ
そんな、いづみさんに今のオススメを聞いてみた。
冬至に入る、ゆず湯の「ゆず」だという。
「見た目はスーパーの物に比べると、不細工かもしれないけれど、農家と契約して“無農薬”で“安心・安全”なものを選んでる。赤ちゃんが入っても、大丈夫なようにね」と胸を張る。